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松山地方裁判所 昭和24年(ヨ)61号 判決 1949年12月28日

申請人

古川光信

外五名

被申請人

井関農機株式会社

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

申請の趣旨

申請代理人は被申請会社が申請人らに対して昭和二十四年十月二十八日なした解雇の効力を停止する。との仮処分を求めた。

事実

申請人等は被申請会社(以下単に会社と略称する)の従業員で且つ会社及申請外井関商事株式会社の各従業員を以て組織する申請外井関農機労働組合(以下単に組合と略称する)の組合員であつたものであるが申請人等は昭和二十四年八月十九日組合規約(以下単に規約と略称する)において組合の統制を乱したものであるとの理由の下にいずれも除名処分に附せられ、更に同年(以下略す)十月二十八日会社から九月六日を以て成立した会社と組合間の新労働協約(以下単に協約と略称する)の規定に基ずき解雇せられたものである。

併し乍ら右解雇処分は

第一、その前提たる組合の申請人らに対する除名処分が以下順次予備的に述べる理由に依り無効であるところから適法に効力を生じていないと言うべきである。

即ち

(一)  規約第二十九条において組合が組合員を除名するためには組合大会の承認を要する旨規定しているけれども大会がこれを議決する権能を有するとの規定はないから組合大会が組合員を除名することはできない従つて右大会における申請人らに対する除名処分は根拠がない。

(二)  規約第十条において臨時大会は執行委員会が必要と認めた場合又は組合員過半数の要求があつた場合に開催さるべきことを規定しているが該大会は組合員でない掃共連盟なるものの要求によつて招集されたものであるから右規定に違反している。

(三)  規約第七条において組合大会が成立するについては組合員の三分の二以上の出席を要する旨規定しているが当時の組合員の総数は五百六十四名であつたにかかわらず当日の出席人員は僅か三百三十名に過ぎなかつたから大会は同規定に違反している。

(四)  組合大会における議事の議決方法について規約に規定はないけれども本件において申請人らを除名するに当つて無記名投票の方法を採らず分離(組合員が席上賛否を表明するため左右に分れること)の方法に依つたことは一部の者が反対派を抑圧するため採つた手段であつて甚だしく非民主的であり公序良俗に反している。

(五)  申請人らは各々その職場において生産増強に精励すると共に熱心に組合員の利益のため組合活動に挺身して来たもので決して組合の統制を乱す如き行為はなかつたのであるから除名処分は実質上の理由を欠ぎ規約第二十九条に違反している。

(六)  就中最も大きな原因は会社が組合の運営を支配し又はこれに介入し組合をしてその自主性を失わしめその結果申請人らを除名するに至らしめたものである。即ち三月二十三日を以て会社組合間の旧協約は失効したので当時組合の執行部を構成していた申請人らの中古川(執行委員長)本田(副委員長)山内(書記長)友沢(委員)は其の他の委員と共に組合を代表して七月十六日から会社との間において新協約案を討議する予備的折衝を行つていたが同月二十一日に至り経営権と労働権の限界点について双方の意見の一致を図る目的の下に前述の申請人らは其の他若干の者と共に組合を代表し会社側代表者たる薬師寺総務部長、園田製造部長と会同し労資懇談会を開催したのであるがそのへき頭において園田製造部長は(イ)現在の組合執行部は共産主義傾向の人物が多い。(イ)交渉は常に対立的反抗的で主義主張を貫こうとする。(ハ)かかる執行部が真に組合を代表しているとは思えない。(ニ)執行部が交代しない限り同人個人としては不愉快で交渉を続けることはできない等放言して退席したのであるがついでその翌日(七月二十二日)朝会(月に一度宛行われる職場の清掃競技の表彰会)において(イ)暗に申請人山内及友沢を指摘する如き口ぶりで学校出の者は会社の仕事もしないで組合運動に没頭し真の組合の利益になつているとは思われない。(ロ)組合員一同が現執行部を支持するかぎり同人としては組合の世話をしない。(ハ)同人は執行部員等と断乎闘うから志を同じくするものは行動を共にせよ。との趣旨の説話をし両度に亘つて組合の分裂を煽動した。その結果として当日(七月二十二日)直ちに職場会議が開かれその決議に基ずき申請人らの構成していた執行部は退陣を余儀なくせしめられたものである。然るに一方会社側の木工主任別宮満壽雄はその中心となつて組合内の申請人らを含む共産党員の排撃を企図する掃共連盟結成の運動を展開し半強制的に組合員を加入せしめその数は約四百九十名に達し同年八月十一日これが結成大会が催されたのであるが申請人らは斯様にして会社の御用機関たる掃共連盟の結成に依り構成員を同じうする組合が完全にその自主性を喪失せしめられ遂に除名されるに至つたものである。なお会社側が不当労働行為を計画的に行つていることはその後九月四日新執行部との間に締結する労働協約案の討議に際し召集された臨時大会の出席者に対して一人当り金百円宛を支給している事実に徴しても明白である。然らば組合の申請人に対する除名処分は会社側の不当労働行為に因りなされたものと言うべく固より違法な行為である。

第二、仮に申請人らに対する組合の除名処分が有効であるとしても申請人らが除名された後に成立した協約の効力を溯及せしめて申請人らを解雇することはできないことは明白であるから会社の申請人らに対する解雇処分は無効である。

第三、なお仮に以上の理由がないとしても協約はユニオン・シヨツプ制でなくその第五条に依れば会社の従業員は原則として組合員でなければならないと規定するけれども同条第四号において会社の意思に依る例外は残されている。又その第二十七条に依つて組合員を除名されたとしてもその結果当然解雇されるものでなく第二条において「最後の(人事に関する)決定権は会社これを行う」と定めている点から見ても被除名者を会社が解雇するかどうかは会社の自由意思に属するところである。然らば本件の解雇は会社の意思に因つてなされたものでその理由とするところは申請人らが組合運動をしたこと、或いは共産党員若しくはそのシンパであることが理由となる結果となるからその解雇は労働組合法第七条第一号に違反する違法のものである。以上の次第であるから申請人は組合に対してはその除名処分の無効確認を会社に対しては解雇処分の無効確認を夫々請求するため十一月十四日当庁に対して本案訴訟を提起しているのであるが右会社の違法な解雇処分に因り申請人らはその職を失い定時の収入の途を断たれ生活に窮している状態であり現下の経済界の一般状況から見れば申請人らが他に一時的の職を得て最低生活を保障される限度の所得を得ることは困難であつて勝訴判決を受けるにおいても回復すべからざる損害を蒙ることになるのでこれが執行保全のため申請人らを会社の原の地位に復することの仮処分を求めるための本申請に及んだ次第であると陳述し被申請会社代理人の答弁(抗弁)に対して申請人らがその主張の如く失業保険法に依る給与を受けていることは認めるも保険金額と申請人らの月収との間には相当の差額が存し保険金額を以てしては到底最低生活の水準を維持し得ないし又労働意欲を有し乍ら労働できないということは重大な苦痛でありこれ又回復し難い損害と云うべきである。なお申請人らが会社から申請人らに対して労働基準法第二十条による予告手当及退職手当を四國銀行を支払担当者とする、小切手を以て送金して来たこと右小切手金を受領していることは認めるも右は申請人らが当然受ける権限のある十一月分の給料が同一小切手に組込まれていたため止むなくそうしたものであつてその受領後予告手当と退職手当は会社に返却方申出たけれども会社がこれを拒絶したので仕方なく各自手許に保管中である。その後会社経理係から形式上領収証を出して呉れとの懇願があつたので領収証を受付したけれども右は退職手当(或いは予告手当)と称するものとしてこれを承諾の上受領したものでないことを明らかにしている筈である。と陳述した。(疎明省略)

被申請会社代理人は主文第一項同旨の判決を求め答弁として申請人らが組合の組合員であつたところ八月十九日組合からその規約第二十九条に依り除名されたこと、九月六日会社と組合間において協約が成立し会社が十月二十八日右協約の規定に基き申請人らを解雇したことはこれを認めるも組合の申請人らに対する除名処分及会社の申請人らに対する解雇処分が無効であるとの主張はこれを争う。

(一)  (申請代理人主張第一の(一)に対して)組合大会は組合の最高意思決定機関であるから規約において除名の手続が定められていなくても組合大会は個々の場合においてその議決に依り適当の方法を以てこれを行うことができるものと言うべく組合が申請人らを規約第二十九条に従つて除名したことは相当である。

(二)  (申請人代理人主張第一の(二)に対して)大会の招集は掃共連盟からの要求に依りなされたものでなくその申入れに基ずき執行部として独自の立場から検討の上申請人らに規約第二十九条違反の所為があると認めて委員長がこれを招集したもので規約第十条に違反しない。

(三)  (申請人代理人主張第一の(三)に対して)組合の八月十九日当時の構成員は五百二十七名であり大会の出席人員は四百三十名であつたから定足数の三分の二を充していたものであり規約第七条に違反しない。

(四)  (申請人代理人主張第一の(四)に対して)大会が議決の方法として分離の方法を採つたのは議決方法について先ず討議の結果多数決に依り定つたもので一部の者が少数派を圧迫する手段としたものではなかつたのであつて勿論公序良俗違反となるものではない。

(五)  (申請人代理人主張第一の(五)に対して)申請人らが組合から除名される実質上の責任を負うものであるか否かについては会社は関知しない。唯会社は協約に基き組合の意思を尊重する義務を負うに止りこの点について何等調査の権限もない。

(六)  (申請人代理人主張第一の(六)に対して)会社側は組合の運営を支配し又はこれに介入し組合をして申請人らを除名せしめる如きいわゆる不当労働行為をしたことはない。尤も園田製造部長が七月二十一日の労資懇談会の席上において更に翌日(七月二十二日)期会々場において申請人代理人主張の如き内容の談話をしたことはこれを認めるけれども右は同人が個人の立場においての意見を開陳したに止りこれを目して会社側が組合の分裂煽動をしたとすることはできない。又七月二十二日職場会議が催され組合の当時の執行部に対する不信任案が可決され申請人らの中の幹部の地位に在つたものは総て退陣するに至つたことは申請人代理人主張の如くであるが右は園田の前述の発言に影響されたものではない、即ち会社内部においては昭和二十三年三月頃既に共産党のフラク活動に反感を持つた一部組合員の間に鶏鳴会なる組織ができていたことがありその後同年十二月に至つて一時反共同志会なるものが結成されたけれどもこれらはいずれも当時左翼分子の勢力が支配的であつたため十分の発展を遂げず終つていたところ中矢武夫、佐伯武美、斉藤綱明の三名が発起人となり同志を糾合して七月十七日頃申請人主張の掃共連盟結成の第一回準備会を催し組合内部において当時の執行部に対する反感の気運を急激に醸成しつつあつたときであつたので宛も園田の発言が組合員を動かした如き外観を具えるに至つたものである。又別宮木工主任が掃共連盟の結成前八月六日頃その会員としてこれに加入の手続をしたことはあるけれども右はその翌々日八月八日会員の反対に遭い直ちにその手続を取消したものであつて同人が掃共連盟の結成について主動的な役割を演じたこともなくその関係と言うのは前述の通り直ちに止んだのであつて固より組合の除名決議とは何等の関係もない。なお会社が九月四日組合の要求に依り金四万円を組合に対し交付したことは認めるも右は厚生資金として従来の慣例に依り支給したに止り組合がこれを如何に使用したかは会社の関与しないところである。

(七)(申請人代理人主張第二に対して)会社は九月六日成立した協約に基ずいて申請人等を解雇したのであるけれども右は協約の効果を申請人らが除名された当時に遡及せしめたものではない。何となれば申請人らが八月十九日組合から除名せられて組合員たる地位を失つている中新協約が成立した結果会社は組合に対し組合員以外の者(協約第五条但書の例外を除く)は総てこれを解雇する義務を負担するに至り会社は組合の要求に基き協約上の債務の履行として申請人らに対し解雇の手続を採つたものである。

(八)  (申請人代理人主張第三に対して)協約はいわゆるユニオン・シヨツプ制であつて会社は限定された例外に該当する以外の非組合員を会社の自由意思に依り使用することは許されないところで会社が申請人らを解雇したのは前述(七)の理由に依るものであつて固より申請人らが組合運動をしたこと或いは共産党員若しくはそのシンパであることを理由とするものでない。

なお(イ)申請人らは現在いずれも失業保険の支給を受けているものであるがそれは申請人らが過去六月間に会社から受けた総所得の六十%内外に相当し右総所得の中には臨時的給与及税金を含むから真の定時的な月収との間に僅かな差額しかなく申請人らが最低生活を与うるに足る程度のものである。従つて仮処分申請の必要性を具えていない。(ロ)元来仮処分は本案の勝訴判決と同一内容を具え終局的保護を与えるものであつてはならないのであるが本申請を許容するにおいては解雇の効力を停止して申請人等に解雇の無効若しくは除名の無効を確認した結果と同一の法律効果を招来する保護を与えることになるもので仮処分の本来の目的を逸脱することになるからこれを認容すべからざるものである。(ハ)会社の申請人らに対する解雇は正規の意思決定機関たる組合の決議に基ずきその要求に依り行われたもので本申請を許容するにおいては憲法第二十八条の規定する勤労者の団結権、団体交渉権及団体行動権を侵害する結果を来すものでこれ亦重大な違法である。(ニ)本件仮処分の申請を容れて申請人らを原職場に復帰せしめるにおいては組合と申請人らとの相こく摩擦を激化することは必至であつて惹いて会社の生産能率に影響し会社は対外取引関係其の他において将来容易に回復し難い甚大な有形無形の損害を蒙るべきことは明瞭でありその損害は申請人らに仮処分を許容せられない場合受くるべき損害に比して一層大であると言うべくこれを認容すべきでないと陳述し、

実体上の抗弁として仮に申請人に対する会社の解雇処分が違法であるとしても申請人らはさきに会社が四國銀行を支配担当者とする小切手に依つて送金した労働基準法第二十条の規定に依る予告手当退職手当を受領し且つ会社に対してはそれぞれ領収証を差入れているものであるから申請人らは少くとも会社の雇傭契約の解約に対してこれを承諾したものと換言すれば会社と申請人らの間において合意解約が成立したと認めるべきであつて被保全権利は存しないものである。

と陳述した。(疎明省略)

理由

申請人らが会社の従業員であつて且つ組合の組合員であつたこと、申請人等が八月十九日組合の大会において規約第二十九条の規定に依り除名処分に附せられたこと、九月六日組合と会社間において協約が成立したこと、十月二十八日会社は右協約に基ずき申請人らを解雇したことは当事者間に争ないところである。

先づ組合の申請人らに対する除名処分が相当であるか否かについて順次審按する。

(一)  規約第二十九条但書において除名処分は大会の承認を要すると規定していることは当事者間に争ないが成立に争ない甲第一号証の当該条文を判読すれば右は大会の決議に依るとの意味に解すべきが当然であるから大会は申請人らを除名する権限を有するものと言うべきである。

(二)  規約第十条において臨時大会は執行委員会が必要と認めた場合又は組合員過半数の要求があつた場合に開催さるべきことを規定していることは当事者間に争なく証人中矢武夫の証言に依れば大会の招集は掃共連盟が申請人らを除名することの要求書を執行部に提出し執行部においては委員会を開いて大会招集の必要性を検討した結果これを招集した事実を認めるに足るからその招集手続は該規定に違背するものとは言えない。

(三)  規約第七条において組合大会が成立するについては組合員の三分の二以上の出席を要する旨規定していることは当事者間に争なく申請本人古川光信の供述に依り真正に成立したと認める甲第七号証に依れば大会当時の組合員数は五百六十四名であつたことを窺うに足るけれども大会の出席人員が三百名内外であつたとの証人洲之内勇の証言並申請本人古川光信の供述は直ちに措信するに難く証人村上良雄、同中矢武夫の各証言を綜合すると出席人員は代理人に依るものを併せて五百名近くであつたことを認めるに足るから大会は該規定に従つて定足数を先したと言うべきである。

(四)  組合大会における議事の議決方法について規約に何等規定のないことは当事者間に争なく証人村上良雄、同中矢武夫、同洲之内勇の証言に依れば大会が議決方法として分離の方法を採つたのは先ず議決の方法について討議の結果多数の意見に依り定められたものであることが明白であるからこれを目して少数派圧迫の手段であつたとは言えないし斯かる方法に依つたからと言つて意思表示(除名決議)そのものが公序良俗違反であるとは考えられない。

(五)  申請人らが組合から規約第二十九条に依り組合の統制を紊したものであると言う理由の下に除名せられたものであることは前述の如く当事者間に争ないことろであるが申請人らが如何なる具体的事案につき組合の統制を紊したものと認められるに至つたかの事実については申請人代理においてこれを主張せず且つその事実の不存在を疏明しないのであるから組合員多数の意見に基ずき除名せられた申請人らには一応除名せられるにつき相当の理由があつたものと看做すより他ない。

(六)  園田製造部長が七月二十一日の労資懇談会の席上において申請人代理主張の如さ発言をして退席したこと、翌二十二日朝会々場においても同人が申請人代理人主張の如き談話を試みたこと、当日職場大会において申請人ら(古川、山内、本田、友沢)を含む執行部に対する不信任の決議がなされその結果執行部は退陣するの余儀なきに至つたことは当事者間に争ない。併し乍ら申請本人古川光信の供述によれば労資懇談会は薬師寺総務部長と申請人らとの間において極めて友誼的に続行せられ閉会に至つたことを認めるに足り当日の懇談会が園田の言動に依つて組合側に不利益な影響を与えたとの疏明はない。又証人村上良雄、同中矢武夫、の各証言を綜合すると組合内においては早くから反共分子を糾合した鶏鳴会なるものが結成されたことがあり、それは当時勢力を得るに至らなかつたが七月十日頃当時組合副委員長の職に在つた中矢武夫及その他の執行部員が申請人古川(当時委員長)らと議が合わず連袂してその職を去つた頃から佐伯武美らの同志を糾合して強力な反共運動を展開しようとしその機運が正に譲成せられていたところたまたま園田が朝会において発言した前後においてその運動が表面化し大多数の組合員がこれに呼応し一団となつて申請人古川らの執行部員に対し不信任の意思を表示するに至つたものであることが明瞭である。なお証人村上良雄、同中矢武夫の各証言を綜合すると会社側の別宮木工主任は掃共連盟の結成準備中加入者として連名簿に署名したことがあるがこれは村上良雄らの反対に遭い八月十一日の連盟結成大会以前において名簿から消去され実際上も連盟活動していない事実を認めるに足る。固より園田が仮令個人としての資格に基くものであることの前提の下においてとは言い乍ら従業員一同の面前において前示の如き発言をすることは稍穏当を欠いた行為と言えぬことはないけれども疎明資料に表われた限度においては右認定の如き事情の下に申請人らは容易くその地位を退くの余儀なからしめられたものであつて直ちに園田が組合の運営に介入したと断定することは早計である。而も申請人らが組合から除名せられたのはそれから約一月後の出来事であり、証人村上良雄、同中矢武夫の各証言申請本人古川光信の供述を綜合すると八月十八、九両日の大会は前後通じて五時間余に亘り行われたものでその間自由な討論に依つて充分討議を尽くした結果遂に申請人らが除名せられるに至つた事情が明らかであつて疎明資料に表われた範囲においては園田の朝会における寸言がこれまでの機運を高めたものであるとは推断に難いところである。尤も其の後組合は九月四日の臨時大会において当日の出席者に対し一人当金百円宛を分配したこと、右資金が会社から組合に交付したものであることは当事者間に争ないところであるが会社は右は厚生資金として組合の要求に依り交付したものであると主張し成立に争ない乙第八号証の一、二はこれを裏書するに足りこれに反する疎明はなく少くとも申請人らの除名処分後になされたものであるから一応これと関係ないものと言うより他ない。而して以上の事実を綜合しても会社が組合の運営を支配し又はこれに介入したと推断することは暫く躊躇せざるを得ない。若し会社側に不当労働行為が存在するにおいては労働組合法上明文はないけれどもその第七条の精神に従い除名処分は無効であると言うべきであるが前示認定の通りであつて申請人代理の主張は採用できないし其の他上来判断した如く除名処分が無効であるとの申請人代理の主張はいずれも理由がないから一応申請人らは八月十九日の大会において規約に従い除名されたものとの結論に到達せざるを得ないのである。

そこで進んで会社が九月六日成立した協約に基ずき申請人らを除名したことは相当であるか否かについて審按するに協約第三十七条において会社は組合が組合員を除名したときは会社がこれを解雇するを原則として会社がその解雇を不適当とすると認めるときにおいては組合と協議する旨規定していることは当事者間に争ないところであるが協約成立以前において除名された申請人らに対してこの規定をそのまゝ適用できないことは申請人ら主張の如くである。併し乍ら協約第五条において会社の従業員はその但書における例外を除いて原則として組合の組合員であることを要するものと規定していることは当事者間に争なく然らば会社は組合に対して原則として組合員以外の者をその従業員として使用できない義務を負担し組合は会社に対してこれに対応する権利を有すること、いわゆる広義におけるクローズド・ショツプ制の原則を規定していると言うべきである。而して成立に争ない乙第十一号証(甲第二号証)に依れば協約(第五条)但書第四号において会社と組合とが合意の上認めた者は組合員でなくして会社の従業員であり得る旨規定しているけれども成立に争ない乙第一号証の一、同第三号証の二、証人白石文子の証言に依り真正に成立したと認める乙第一号証の二、同第二号証、同第三号証の一、同第四号証乃至第七号証を綜合すると組合は会社に対し申請人らに対する解雇処分を張要していることが明らかであるから組合は申請人らを右規定に依る例外者として扱う意思を有しないことを推測するに足り固より申請人らを更めて組合に復帰せしめる意思を有しないことが明らかであり会社は右組合からの要求に基ずき組合に対する協約上の債務の履行として申請人らを解雇したものであつて協約第二十九条の規定を遡及せしめたことにはならずかゝる解雇処分が違法でないことは労働組合法第七条第一号但書において明定するとこである。

果して然らば会社の申請人らに対する雇傭契約の解除は一応有効になされたものと認めるべきであつて本件申請は実体上の理由がないと考えられるから爾余の判断を用いるまでもなくこれを却下すべきものとする。

仍つて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文第九十五条本文を適用し主文の通り判決する。

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